物性」という言葉は聞き慣れないかも知れませんが、実は「物性物理学」は素粒子・原子核物理学と並ぶ物理学の2大分野の一つです。  超高速光通信・スーパーコンピューター・環境保護型新素材など最新の科学技術を根底から支えているのが物質科学ですが、その中でも「物質の成り立ち、現象、機能」などを量子力学・電磁気学や統計力学などの物理的考え方、手法に立脚して研究するのが「物性物理学」です。

例えばみんなが日頃利用している携帯電話の基地局や衛星放送アンテナの中を覗いてみると、そこには非常に微弱な電波を受信するための極めて高性能な増幅用デバイス(高電子移動度トランジスタ:HEMT)が用いられています。これは半導体中の電子の運動を「物性物理学」的に研究することにより誕生しました。もしこの発明がなければ、いまのように誰もが携帯電話を持ち歩くような世の中にならなかったかも知れません。

また極めて高画質なDVD-RAMは最近急速に普及し、家庭用ビデオに取って代わる勢いです。この技術には安定性の高い高密度記憶材料が不可欠ですが、GeSbTeという特殊な物質の特性を「物性物理学」の手法で解明することにより、これを得ることができました。

これら以外にも、私達が日常的に使っているパソコン、通信、マルチメディアなどの技術に用いられている大容量ハードディスク、液晶ディスプレイ、半導体メモリ、半導体レーザーなど、「物性物理学」を基礎にした研究から生まれた製品が私達の生活を取り囲んでいます。

このように、現在の私達の暮らしを支えている技術の多くは、その源をたどれば物性物理学的な発見が出発点となっています。基礎に立ち戻って解明された科学的知見は私達の自然観を豊かにし、真に独創的な技術の源となって産業における大きな流れを作り出します。 21世紀の技術の種を育てる、まさに真に独創的、創造的な科学技術の源(ゆりかご)となるのが物性物理学なのです。