遠赤外線領域として分類される0.1~10テラヘルツ(1兆ヘルツ)の周波数帯の電磁波は、様々な物質において特異な透過特性を持っています。したがって物質分析や非破壊検査、安全安心分野におけるイメージングにおいてこの周波数帯の電磁波が注目されています。これに伴い光源や検出器、分光システムやイメージング技術が近年急速に発展し、現在では分光分析装置やカメラ等も市販されています。さらにこの周波数帯は超高速無線通信としても注目されています。
このように赤外領域での自由な光波制御技術は成熟したかのように思われますが、偏光を制御する技術はあまりありません。例えば光軸を変えることなく偏光を制御する受動素子として位相板があります(図1)。位相板は可視近赤外領域では水晶、プラスチック、半導体などで作られており、光エンコーダ、ディスプレーやプロジェクタ、DVDなど光学式記録装置のピックアップ素子など現在の光デバイスにおいて必須の素子です。しかし遠中赤外領域では透明な位相板の機能を生み出せる材料がないため、簡便に使える位相板はありません。
研究グループではマイクロ波領域の導波路技術をテラヘルツ周波数領域に拡張することで位相板が構築できることに注目しました。金属平行平板間に電磁波を入射すると、その偏光の向きによって伝搬する電磁波の位相の進み方が異なります。この位相変化がテラヘルツ周波数領域で最適になるように、化学エッチングによって周期的な開口を持つ金属板を整形し、等間隔に配置して素子を構築しました。このような単純な構造であっても周波数0.67テラヘルツから1.21テラヘルツの周波数帯で位相板として偏光が制御できることを実証しました(図2)。
図1 位相板による電磁波の偏光制御の概念図。
直線偏光の電磁波を位相板に入射すると、透過波の偏光が大きく変化する。下図は本研究において金属板だけで作成した位相板の写真。
図2 構築した位相板における遅相軸と速相軸の位相シフトの周波数依存性。
0.67テラヘルツから1.21テラヘルツの周波数帯で90°の位相差が5%以内の精度で生じていることから、4分の1波長板として機能する。