物質は、それを構成している原子が、おびただしい数のバネによって3次元的に繋がれてできています。原子と原子をつなぐバネのバネ定数(原子間結合力)が大きいほど、その物質の結合力は大きく、変形しにくくなります。最も高いバネ定数をもつ物質がダイヤモンドです。この高いバネ定数のおかげで、極めて高い融点、熱伝導率、硬度が実現されています。ダイヤモンドを超えるバネ定数をもつ物質が世界中で長い間探究されてきましたが、実験的には一つとしてその例は見出されていませんでした。当研究グループは、高温・高圧の特殊な条件下で合成したナノ多結晶ダイヤモンドが、通常のダイヤモンドを超えるバネ定数を持つことを発見しました。このダイヤモンドには、多量の双晶と呼ばれる欠陥が存在します。通常の物質では、欠陥が導入されると、平均的な結合力が低下するために、バネ定数は小さくなるはずです。ところが、研究グループは、この特殊な欠陥部分のバネ定数が逆に非常に大きくなることを理論的に見出しました。
合成したナノ双晶多結晶ダイヤモンドは、数ミリ角と小さく、通常の方法ではそのバネ定数を測定することができません。最近は、小さい物質のバネ定数を計測するには、物質を鳴り響かせてその音色を聞き取る、という方法が一般的に用いられています。同じ重さで同じサイズの物質が鳴り響くとき、より高い音で鳴り響けばより強いバネから構成されていることが分かります。ところが、ナノ双晶多結晶ダイヤモンドは小さく硬いため、正確に形状を整えることが難しく、バネ定数を従来の手法により計測することができませんでした。そこで研究グループは、レーザー光を用いて、直径50μm、奥行き5μm程度の領域だけを鳴り響かせ、また、その音色を別のレーザー光で正確に「聞き取る」、という技術を開発しました。これにより、不定形なナノ双晶多結晶ダイヤモンドの一部だけを鳴り響かせ、正確にバネ定数を測定することができるようになりました。鳴り響かせる音の波長は90nmです。これは、可視光の波長(数百nm)よりかなり短い波長です。測定の結果、通常のダイヤモンドのバネ定数を確実に超える値が観測されました。
赤色レーザーによりダイヤモンドの一部分を鳴り響かせ、
青色レーザーによりその音色を聞き取る技術のイメージ図