東北大学材料科学高等研究所(AIMR)/同大学院環境科学研究科の熊谷明哉准教授と大阪大学大学院基礎工学研究科の大戸達彦助教らは、筑波大学数理物質系の伊藤良一准教授を研究プロジェクトリーダーとして、炭素原子一層からなるグラフェンのエッジ構造に着目し、そのエッジ構造は数学的な観点から見ると幾何学的歪みが化学元素種の受け入れ先(ホスト)になりうることを見いだし、意図的に化学元素種の導入(以下、化学ドープという)を行いました。グラフェンのエッジ構造に意図的に窒素(N)とリン(P)を導入することにより、化学ドープしていないエッジ構造を持つグラフェンやエッジ構造を持たない化学ドープしたグラフェンよりも、化学ドープしたエッジ構造を持つグラフェンは水素発生能力が高いことが分かりました。その反応性は、DFT(density functional theory)計算によりピリジン型結合(図1 化学式参照)を持つ窒素に由来していると予想され、最先端の電気化学顕微鏡技術を用いて実証しました。グラフェンのエッジに意図的に窒素とリンを化学ドープする技術の確立と、DFT計算による水素発生反応に関与するプロトンの吸着エネルギー結果を比較し、世界有数の高分解能を持つ最先端の電気化学顕微鏡技術により評価した結果、一般的に用いられる高価な貴金属である白金に迫るものであり、非金属元素の化学ドープとエッジ構造などの原子構造が、電極の反応性の向上に寄与するものであることを世界で初めて実証しました。これは、さらなる触媒活性の向上と、金属フリーで安価に水素を発生させる水素社会に向けた水素製造の基盤技術として期待できます。

今後、本研究を起点に、再生可能エネルギー電力と非金属のみで構成される電極を組み合わせることで、環境に負荷がかからない水素製造の創出技術に結び付くとともに、数学的観点を利用した材料の表面構造と化学ドープ状態の制御などが次世代物質の探索・設計・開発につながり、水素社会構築に向けた研究への礎となることが期待されます。本成果は2019年4月1日(英国時間)にWileyが発行する「Advanced Science(オープンアクセス)」誌のオンライン版で公開されました。

図1 化学ドープグラフェンエッジ構造の作製法の概略図。
銅基板上にSiO2のナノ粒子を分散させ、CVD法によりグラフェンを成長させる。グラフェンは、ナノ粒子上では成長せず、その後、ナノ粒子と基板を除去することでグラフェンにナノ粒子の粒径の大きさが開いたグラフェンエッジを作製し、CVD法の導入ガスや成長温度を調整することでNPの化学ドープを行った。導入されたNPは挿入図の化学構造を持つピエリジン型を主に有する。